コベルコ建機株式会社 構造計画研究所
施工現場の生産性・安全性の向上を目指し、建設機械メーカーが取り組むBIMアドインソフトの開発
コベルコ建機株式会社
企画本部 新事業推進部長 兼 ICT推進部 担当部長
広島大学
先進理工系科学研究科 客員教授
山﨑 洋一郎 氏
コベルコ建機株式会社
企画本部 新事業推進部 新事業企画グループ マネージャー 岡田 哲 氏
クレーンとショベルを主力製品とする建設機械メーカーのコベルコ建機。1930年代から建設機械の開発を手掛けており、時代のニーズに沿った製品を提供し続けてきた。
建設業界でBIMを活用した施工の取り組みが進む中、同社は新たにデジタルツインプロジェクトとして、BIMでのクレーンモデルの活用に取り組んでいる。具体的にはBIMソフト上で動作するアドインソフトを開発。クレーンの選定や配置、適切な施工計画の実施を支援するものだ。
同ソフトの開発は、技術力に定評のある構造計画研究所の協力を得て行われ、現在、正式リリースに向けて着々と準備が進行している。
今回、同アドインソフトの開発経緯や建設現場での活用方法、将来的な姿まで、コベルコ建機の山﨑洋一郎氏と岡田哲氏にお話を伺った。
建設業界の課題を踏まえた建機メーカーならではの新たな取り組み
昨今、建設業界ではBIM/CIMを活用し3Dモデルを用いた施工を進め、効率化と生産性の向上に業界全体で取り組んでいる。そのような中、コベルコ建機の山﨑洋一郎氏は、「建築と土木の共通の課題の1つとして、技能労働者の減少があります。建機メーカーの視点でお話すると、特にクレーンに関してはオペレーターの高齢化が進み、全国の現場で経験豊富な人材の確保が難しいという声を多く聞くようになりました」と語る。そして「いまゼネコンを含めた施工会社は3Dモデルをベースとした施工工程の計画を、設計段階でBIMソフトなどを用いて行い始めていますが、実際のクレーン作業では未だにオペレーターの個人的なスキルに依存する状況にあります」と山﨑氏は分析する。
つまり、実際にBIMを用いて事前に施工計画を立てて実行しようとしても、計画側の設計者などは実際にクレーンの機械特性などに詳しくない。そのため、結局は現場監督の経験値やクレーンオペレーターの技術に頼る状態で、場合によってはオペレーターの技量によって施工スピードが左右されるケースもあるという。計画どおりに工事が進まず工期が延びると、資材搬入の遅延やロス、それに伴う建築コスト増加、そして、安全の確保など、さまざまなことに影響が及んでいく。
そこで山﨑氏は「現場の声を聞いていくうち、クレーンに詳しい建設機械メーカーとして、この課題に対して貢献ができないかと強く思うようになり、BIMの活用が進む中で我々にできることを考え始めました」。その結果、同社はBIMの3Dモデル上でクレーンを動かせ、さらに工程を見える化するソリューションの企画検討を開始した。
岡田氏も「建設業界では施工BIMが積極的に推進され始め、この機会に吊り能力に応じたクレーンの選定や配置提案もお客様にできると考えました。まずは、実際に施工計画を立てる側や、クレーンを活用する立場の人にヒアリングをして、何が必要な機能かを具体的に聞いて要件をまとめていったのです」と当時を振り返る。
クレーンに詳しい同社だが、BIMソフトのアドインの開発ノウハウはなかったという。そのような中、Archi Future 2018の展示会に来場者として訪れ、展示ブースで構造計画研究所に相談したことで、企画の実現が加速した。「2019年に開発を始め、その後はコロナ禍の状況下でもありましたが、提案を適宜受けながらスピーディーに進みました。我々も構造計画研究所も、ものづくりを行ってきた文化があるため、私たちの考えに共感いただけたのもポイントでした」と評価する。そして、簡単操作でファミリ動作ができ、施工計画に必要な情報やたわみ表示、タイムライン表示、断面図のチェックなど幅広い機能を備えたクレーンの施工シミュレーションを実現するソフトの開発に至ったのである。
直感的な操作性で誰もがシミュレーションを行える機能
さて、さまざまな機能を備える同ソフトだが、老若男女の幅広い層が快適に使えるよう、開発過程では多くの課題を乗り越えてきた。岡田氏は「例えば、BIMソフトのRevit上でのクレーンモデルの見せ方や機械特性などを織り込んで開発していくと、Revitのプログラム負荷が高くなり、レスポンスが遅くなってしまいます」と語り、3Dモデル操作時のレスポンスの確保に苦労したという。そして「3Dモデルのクオリティとソフトの操作性のバランスを取り、構造計画研究所とともに確認しながら快適な動作を実現しました」。数か月の時間をかけて、クレーンモデルや機能特性のもたせ方を工夫し、ストレスのない操作速度に改善できたと話す。
また、使いやすさにもこだわっており、「ソフトを直感的に扱えなければ、ユーザーから評価されませんし使ってもらえません。クレーンモデルは建物に対して、吊り能力に応じた姿勢を検討するシーンが多いため、これをマウスのクリックだけで検討できるように開発しました」と岡田氏。
さらに、クレーンオペレーターが実現場で注意する点を事前に検討できるシミュレーション機能は、特に重視して開発したと話す。「ヒアリングでも、安全に関する話題は多くありました。クレーンのブームは、姿勢や吊荷の重量によってたわみ量が変化します。クレーンの軌道に余裕がないと、ブームを動かすときに建物や足場に当てたりする事故の可能性があります。それで、たわみ分を勘案して建物との干渉が回避できる機能を持たせています」と安全性を担保しつつ検討が可能だと説明する。
そのほか、クレーンのブームのサイズや長さなどのアタッチメントと呼ばれる仕様を変えながら検討することも可能。資材を何トンまで積めるか、許容値の何%ほど使用しているかといった、施工計画に必要な情報も把握できる。また、クレーン施工での吊り上げて下ろすまでの工程をビジュアルで見せられるため、施工検討会や安全検討会、現場への説明会などではコミュニケーションツールとしても活用できるだろう。
現場の安全性と生産性に貢献し、さらなるDXの前進へ
そして、これらの機能を備えた同ソフトの活用により、施工計画を検討する段階から、クレーンのサイズ選定や重機の配置などの手順を明確にできるという。岡田氏は、「弊社のソフトを使用いただくと現場監督などの経験に左右されず、施工期間やオペレーターの平準化が図れるようになります。また、建物とクレーンの接触や吊り能力の余裕度が事前に検討できるため、吊り能力に応じたクレーンの選定や配置の提案もでき、現場の安全性がより高まることにも期待しています」と効果を語る。
また、現場ごとに適切なクレーンを検索し選定できる機能は、安全面と同時にコスト面のメリットもあり要望が多かったという。「“この建物だったら、どの程度の性能を持ったクレーンが適切なのか”と問い合わせを受けることもありますが、現場ごとに状況は異なります。同ソフトなら工事の全行程をシミュレーションし、吊り上げる地点と積む地点の距離、重量のモーメント、それに応じたクレーン能力のマッチングを判断できるため、50トンから500トンまでの幅広いラインナップから最適なクレーンを選んでいただけるようになります」。
このアドインソフトは、コベルコ建機のユーザー数社の現場でプロトタイプを試用し、評価中の段階だという。フィードバックを経て、2022年度春には本格的なリリースの予定だ。
そして、将来の見通しや構想を、山﨑氏は次のように語る。「建設施工の生産性や安全性を高めていくことは、建設機械メーカーとして重要なことだと考えています。当社は“お客様現場のDX”を掲げており、今回開発したソフトで生産性や安全性をより高めるために貢献していきたいと考えています。今後は国内、海外ともに、デジタルツインの取り組みも進んでいくはず。我々は今回のソフトを起点に計画と実績のデータの連携も図り、施工計画や現場での施工実績の見える化、最適化をさらに進めたいと考えています」。世の中の情勢に合わせた柔軟性をもち、なおかつ建設機械メーカーの知見を活かしたコベルコ建機の堅実な取り組みから、建設現場の生産性・安全性の向上がさらに進む姿が見えてきた。
CORPORATE PROFILE
会社名 | コベルコ建機株式会社 |
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設立 | 1999年10月1日(現社名変更年月日) |
事業内容 | 建設機械、運搬機械の製造、販売並びにサービス |
所在地 | 東京都品川区 |
代表者 | 代表取締役社長 尾上 善則 |