エヌビディア合同会社 アスク
メタバース構築3Dプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」が変革するデザインコラボレーション環境
エヌビディア合同会社
エンタープライズマーケティング シニアマネージャー 田中 秀明 氏
GPU開発などのトップランナーとして、高精度の3Dビジュアライゼーションを可能にするソリューションを提供するエヌビディア。同社は、場所やソフトなどの壁を超えてコラボレーションできる仮想プラットフォーム「NVIDIA OmniverseTM」をリリースした。
デジタルツインをOmniverseで開発することで、現実の物体が正確に仮想複製でき、同期させることができる。さまざまな立場の人がリアルタイムに協働することを可能にするオープンプラットフォーム開発の経緯や特徴、そして、メタバースの時代に向けた空間コンピューティングアプリ「Omniverse Create XR」について、エヌビディア エンタープライズマーケティング シニアマネージャーの田中秀明氏に話を伺った。
複数ユーザーが仮想空間で同時に作業できるOmniverse
NVIDIAは2020年12月から「NVIDIA OmniverseTM」(以下「Omniverse」)べータ版のリリースを始めた。Omniverseの作る3D仮想空間に各種3Dアプリをつなぐことで、正確なスケールでリアルタイムなレンダリングで忠実な表現が行われる。エヌビディアの田中秀明氏は「Omniverseは、精度が要求されるCADやBIMの3Dデータを構築していくための産業向け3Dプラットフォームという位置づけにあります」という。
Omniverseの最大の特徴は、複数のユーザーが同時にレビューできることにある。「アプリ毎でのデータ変換を必要とせず、アプリをOmniverseに接続することでデータの共有が可能です。これにより、デザインコラボレーションが一層円滑に進むようになります」と田中氏は語る。
もともとOmniverseは、NVIDIA社内で利用するプラットフォームとして開発され、発展してきたという。「開発チームが全世界に広がるなかで、複数人が同時にコラボレーションできる環境をつくる必要がありました。使用する3Dのアプリケーションが増えるとそれぞれでインポートとエクスポートが必要になるため、まとめて作業ができるプラットフォームが強く求められるようになったのです」と田中氏はいう。また、都市レベルの規模などを扱う時に大きくなるデータをも扱えるプラットフォームとして、Omniverseは開発された。
Omniverseの基本的な概念は、3Dの仮想空間が中心にあり、さまざまなユーザーが接続して同じ仮想空間に入るというもの。別々の3Dソフトを扱う複数人が、同じ仮想空間の中で異なる部位のデザイン作業を同時に行うことができる。部材のサイズを変えたり仕上げを変えたりすると、リアルタイムに光や影も反映される。他の人が行う作業の様子を見ながら、自分も作業を進めることができる。ユーザーは建築を制作し空間を扱うチームだけでなく、アバターを制作するチーム、アニメーションをつくるチームが同じデータに接続するといったことも可能。また、複数人が同じソフトを扱い、同じデータを操作することもできる。
さまざまな3Dアプリケーションとのデータコネクトが可能
ソフトウェアベンダーの提供する各種3DアプリとOmniverseとの連携は、順調に進んでいる。主要な3Dアプリには順次コネクターが用意されてきており、コネクターをインストールしておけば3DアプリのメニューにOmniverse用のコマンドが現れる。このコマンドを選択すれば、データがリンクしOmniverseに簡単に接続することができる。双方向接続に対応するアプリでは、Omniverse内でデータを修正すると元のデータも即時にフィードバックされる仕組みとなる。2022年9月20日時点で双方向コネクターが用意されているのは、3ds MAX、Maya、Unreal Engineなど。一方向コネクターが用意されているのは、Revit、Rhinoceros、Archicadなどとなっている。コネクターの開発は急速に進んでおり、現時点でコネクターがないソフトのデータでも、CADインポーターで主要な3D CADデータを読み込むことができるという。
「点群データを読み込むこともできますし、CADインポーターではデータを圧縮して読み込む機能もついています。海外の建築設計事務所では、都市計画など大きなスケールのプロジェクトでも運用されています」と田中氏は語る。ノーマン・フォスターが率いる設計事務所 FOSTER + PARTNERS、また、KPFといった大手設計ファームでもOmniverseはすでにプロジェクトで導入され、設計のさまざまな場面でコラボレーションとリアルタイムビジュアライゼーションが活用されているという。
さらにOmniverseでデジタルツインを利用し役立てているのが、BMWグループである。BMWグループでは工場ラインのデジタルツイン化にOmniverseを導入し、生産のプランニングで活用している。「ロボットシミュレーターにNVIDIA Issac SimというAIシミュレーターを利用しており、ライン設計のデジタルツインも合わせてOmniverseで統合しました。Omniverseの中でアバターを作り、作業者の動線も検証しながらラインを設計することが行われています」と田中氏。NVIDIAでは自動運転などに活用できるAIの開発にも力を入れており、動的なシミュレーション機能をOmniverseでも共有していることから発展した機能だ。建設の工事計画や現場でも、近い時期に導入されることが予想される機能といえるだろう。
メタバースで加速するリアルタイムのデザインコラボレーション
Omniverseは企業向サブスクリプションライセンスの「NVIDIA Omniverse Enterprise」の他、「クリエイター向けNVIDIA Omniverse」が無償で提供されており、2名まで接続可能。「Omniverse Create XR」ベータ版も2022年4月から提供され、無償版を試すことができる。これはOmniverseでのデータを前処理なくそのままVRで見ることができる、メタバースに直結する機能である。「Varjo AeroやVIVE FocusなどのVRヘッドセットを装着すれば設計中のデータをVRで見ることができます。例えば、設計者が作業しているVR空間にクライアントも入り、VR空間の中だけでディスカッションしながらエディットし、リアルタイムにレビューすることが可能となります」と田中氏。異なる場所にいながら建築や家具などの変更がダイレクトに見えるほか、季節や時間に応じた光の具合などが把握できるため、プロジェクトの進め方も変わっていくだろう。
Omniverseを快適に動作させる環境として、GPUは「NVIDIA RTX A4500 グラフィックス カード」を目安に、それ以上の性能のGPUが望ましい。ソフトウェアだけでなく導入支援から販売、サポートまで行う販売代理店としてアスクがあり、アスクは、Omniverseの日本国内における導入から運用までをサポートする、エンタープライズ向けアシストセンターを2021年から開設している。実際に導入する時のハードウェアまでアドバイスを受けることができるので、どのようなプロジェクトで有効的に活用できるかも含めて、相談するとよいだろう。
なお、NVIDIAではオープンなメタバースに向けて、3Dデータ向けの言語としてUniversal Scene Description (USD) をOmniverseの標準としている。田中氏は「3D仮想世界でのHTMLのような位置づけです。オープンソースかつ拡張可能で、BIMやCADを含めたソフトウェアでもスタンダードとなる見込みで、Omniverseとの相互運用もスムーズにできるようになります」と説明する。「メタバースは今後数年で急速に普及しますし、次の環境をつくっていく若手には特にOmniverseに触れていただきたいですね」とも田中氏は語る。
デジタルツインやメタバースの実践に向けたプラットフォーム環境がいよいよ整い、設計や施工の現場で活用できるイメージが膨らんできた。3Dビジュアライゼーションを軸としたデザインコラボレーションやVRの世界に、誰もが足を踏み入れるべき時期が来たと言えるだろう。
CORPORATE PROFILE
会社名 | エヌビディア合同会社 |
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設立 | 2003年 |
事業内容 | 3Dグラフィックス用半導体、データセンター向けIT機器の開発と製造、並びにAI、ビジュアライズソリューションの開発と販売 |
本社 | 東京都港区 |
代表者 | 日本代表 兼 米国本社副社長 大崎 真孝 |