株式会社日建設計 NYKシステムズ
デジタルリレーで実現した某大学病院の設計プロジェクトにおけるBIMデータの活用
株式会社日建設計
エンジニアリング部門 設備設計グループ アソシエイト 浅川 卓也 氏
エンジニアリング部門 設備設計グループ 五明 遼平 氏
日建設計が設計を手掛ける「某大学病院の新築プロジェクト」は、一般病棟以外の統合診療棟を延床面積 約7万m2で建設するという大規模なプロジェクトだ。
これまで設備設計のBIMといえば、3Dモデルを作成した上で納まり検討をするイメージが先行し、設計図書作成でのBIM利用や、本来最も利用価値があるモデルデータ活用はあまり進んでこなかったが、同プロジェクトでは、基本設計の段階から意匠・設備・構造の分野を横断したBIMのデータ活用を実践。そして、デジタルデータで部門を超えたデータコラボレーションにより、モデルデータを一元管理した。この「デジタルリレー」が、大規模プロジェクトの設備設計で、円滑な情報共有と、部門間の不整合防止と大幅な効率化をもたらすことになった。
今回、このデジタルリレーやBIMで実現したコラボレーションの様子と可能性、その中で発揮されたNYKシステムズの建築設備3次元CAD「Rebro(レブロ)」の活用方法などについて、日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループの浅川卓也氏と五明遼平氏にお話を伺った。
BIM=BI+Mという考え方で進んだ「デジタルリレー」
「某大学病院の新築プロジェクト」は、一般病棟以外の診療/検査/材料/手術/特殊病棟が納まる統合診療棟を病院内の敷地に建設するという案件で、延床面積は約7万m2、地上8階・地下2階、基準階のプランをもたない大規模プロジェクトである。
日建設計では2018年に企画・検討に着手し、2019年11月から本格的に設計を始めたが、2020年初頭からコロナ禍で同社、建築関係各社が在宅勤務になり、リモートで協働せざるを得なくなったという。この状況が浅川氏と五明氏をはじめとする設計チームの背中を押し、新築の設計図全般をBIMで作成・共有などを行う、いわゆるデジタルリレーに挑戦することとなったのである。
浅川氏と五明氏は意匠設計図・構造図・設備図をデジタルで繋ぐことで不整合防止、設計の効率化が可能と考え、基本設計から実施設計、積算まで活用することを目標に掲げた。浅川氏は「今回は3Dモデルで施工上の取り合いを解決するだけでなく、設計の初期段階で建物与条件、設備仕様などの「BI」すなわち建物情報データを共有し、コラボレーションすることがポイントでした。特に、今回のような大規模案件では前倒しでBIを整理することは後の設計の手戻り防止にも効いてくるのです」と取り組みの意図を説明する。建築設計では設計者エンジニアや作図協力者など多くの人が関わり、短期間で作業をしてプロジェクトを進めるが、ツールもソフトも人も異なる中で協働するために、デジタルで繋いでいくことは必須であった。
また、建築図面は意匠図、設備図、構造図があって一つのパッケージになるが、それぞれの図面を作成するソフトや環境が異なるため、これまで図面情報が繋がった作図は、それほどされてこなかったという。
「そのため、基本設計で建築のBIMやCAD図をもらっても設備設計側では、設備条件を固めるには多くのアナログ作業を伴うことが大半でした。今回は設計検討する中で出た課題を構造設計者や意匠設計者と共有し、調整を行う設計プロセスにおいて、基本設計段階からデータコラボレーションにより、設計情報 (BI) の整理、プラン調整 (M) の双方を、いかに効果的にできるかに重点を置きました」と五明氏は語る。
BIMは3Dモデルの作成がメインというイメージが色濃くある中で、浅川氏と五明氏はBIMの本質は「BI」と「M」を繋ぐ“デジタルリレー”にあるとし、幅広いプロジェクトで活用できる考え方だと説明する。
部門間のBIM図面調整にRebroを活用
デジタルリレーでは、クラウドで情報を一元管理し、主にRevit、Dynamo、Excel、そして、NYKシステムズの建築設備3次元CAD「Rebro(レブロ)」を使いながらBIM図面を作成していった。例えば、設備設計で天井の懐の納まりを検討する場面では、梁下で500mmの空間が取れていない個所を黄色く表示したという。
これについて浅川氏は、「意匠・構造設計者がRevitのモデル内に床下がり、梁、スラブ厚、そして天井モデルを入れた上でDynamoを使い梁下の天井内空間が500mm不足している箇所をデジタルによる見える化をおこなった」と説明する。これまでは梁伏図を見て、階高や梁せいを確認しながら一つ一つ梁下の寸法が取れているか確認していたものを、BIMでは色分けされて瞬時に把握できるのだ。
「カラー化した状態で共有できることは効果的でした。意匠や構造にも定期的にチェックしてもらう際に調整するターゲットが効率的に絞られ、梁下スペースが確実に守られるようになりました」。大規模な案件だが、部門を跨いで効率的な情報共有を実践できたと浅川氏は振り返る。
そして、その結果を踏まえ納まり検討のBIM作図に活用したのが、NYKシステムズのRebroだ。「自分たちは今回初めてRebroを扱ったのですが、簡易的に3Dモデルで作図したり、意匠図・構造図と設備図の重ね図をつくる時にデータが比較的軽く、さらにCGを使った納まり調整がし易いソフトだと感じました」と浅川氏。
ソフト連携を活かした設計手法
「意匠BIMのBIに基本的に部屋の面積と天高が設定されていれば、設備設計ではまずは照度計算を進めることができます。照度計算の結果を踏まえてExcelとDynamoを使いデジタルリレーすることで、意匠BIMに照明器具の自動配置をおこなった。そこから天伏図へ照明のプロットが反映され、天井の空調機器を含めて初期段階から意匠・電気・機械の天井調整ができます」と浅川氏。
「設備設計はExcelを使う技術計算が多いので、ExcelとBIMモデルをデジタルに繋ぎました。さらに拡張した例として意匠BIMを使った外皮負荷計算ソフトから空調の計算ができ、機器リストや動力リストを作成することもできました。そうした内容を部門間でキャッチボールしながら、プランの調整や納まり検討が的確にできました」と五明氏はさらなる効果を説明する。
こうしたプロセスで作成された意匠BIMモデルには、コラボレーションの中で決定した設計与条件である温湿度、室圧、清浄度、BCP対応与件等設備諸元(BI)が入っています。「部屋の壁が多少動いたり、位置が変わってもいったん入力したモデルの与条件情報を引き継いだ状態でプラン修正され、その情報が設備設計へ戻ってくることは大きなメリットでした」と浅川氏はデジタルのメリットを語る。
「BIの情報を実施設計まで完遂させるにはこれまでの設計に比べ設計時間は増えましたが、今回設備の積算をRebroへ入れたBIM図面から積算ソフトと連携し、従来1ヵ月以上掛かるダクト・配管などの集計を僅か数日で終了しました。このように多少、設計段階で時間を要しても最終的には時間短縮へ繋がるのはデジタルリレーの効果であるし、Rebroが積算ソフトとの連携機能を持っているからできた成果でした」と浅川氏。
BIMモデル作成はこれまでの設計プロセスに似ている
「BIMモデルを作成するのは、実は2次元の作図でしていたことと変わらないと言えます」と浅川氏と五明氏は断言する。これまでは手書き図面、PDF図面上に必要な情報を書き込むというアナログ的に情報共有がされてきた。
「体験から言えるのはBIM図面でも同じやり方でできました。ポイントは、デジタルリレーで得た設計情報、検討結果を設計メンバーがBIMオペレーターへ明確に「検討点、課題点」を共有し、フェィズ毎に関係者がBIMモデル上で検討課題を見える化、整理ができればBIM図面を作ることは2次元作図のやり方は殆ど変わらない」と二人は言う。
五明氏は「BIMというと設計者自らが複雑な3Dを操るようなイメージを持つ人が多いのですが、オペレーターが入力したモデルを設計者がチェックして戻すサイクルができれば、あとはオペレーターがスムーズに作成できるよう納まり断面を適宜考えることなどは同じです。私もそうだったのですが、3Dモデルがある程度できてくれば、自分でも少しRebroで触ってみようという人も増えるでしょう」という。ただし、浅川氏は「他部門や協力事務所とのデジタル連携や作業では、設計者がすべての調整を担うには時間とBIをコントロールするか知識が足りない。今回のプロジェクトでは、データをマネジメントしアシストするBIコーディネーターを2人置き、それがとても重要でした。このコーディネーターがいたことが大きなポイントとだったと言えるでしょう」と分析する。
今後は、施工BIMやFMにまでデジタルリレーを繋げていくことを浅川氏と五明氏は現実的に考えている。「施工者はデジタルリレーで繋がった建築・設備・構造のモデルを受け取れば、自分たちの施工図検討も効率的になります。また、大規模病院では数万点に上る設備機器の情報をデジタルで管理できれば、竣工後のFMでもより良い提案が行えるはずです」。今回作成したデジタルデータのバトンは施工へと受け継がれ、今後もBIMデータのデジタルリレーは続いていく。
CORPORATE PROFILE
会社名 | 株式会社日建設計 |
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設立 | 1950年 |
事業内容 | 建築の設計監理、都市デザインおよびこれらに関連する調査・企画・コンサルティング業務 |
本社 | 東京都千代田区 |
代表者 | 代表取締役社長 大松 敦 |