事例レポート

東急建設株式会社 Epic Games Japan

東京メトロ銀座線渋谷駅のプラットホーム移設工事におけるTwinmotion活用の絶大な効果

東急建設株式会社
都市開発支店鉄道土木部 デジタルテクノロジー統合推進事務所 所長 池田 仲裕 氏

東京・渋谷駅の街区基盤整備に合わせて行われている、銀座線渋谷駅の移設工事。
線路切替工事とホーム移設を同時に行う3回目となる切替工事が2019年末から2020年頭にかけて短期間で行われた。
前代未聞の大工事を遅延なく、また確実に成し遂げるために役立てられたのが、Epic GamesのTwinmotionであった。
銀座線渋谷駅でBIM/CIMの活用を進めてきた東急建設 デジタルテクノロジー統合推進事務所 所長の池田仲裕氏に、実際の工事でどのように3Dモデルを活用してきたのか、また施工以外でも建設プロジェクトでどのように役立てられるのかを伺った。

銀座線渋谷駅の移設工事でTwinmotionを活用

東京の巨大ターミナル駅・渋谷駅の周辺では、「100年に1度」といわれる大規模な再開発が進んでいる。その再開発の中心にある東京メトロ銀座線の渋谷駅では、元は東急百貨店ビルの中に位置していたプラットホームを、6日間という短期間で約130m移動するという改良工事が2019年末から2020年初頭に行われた。駅は営業を開始してから80年余が経ち街の成長と共に駅利用者が増加するなか、ビル内でプラットホームの延長・拡幅ができないため、車両の運行本数を増やして乗降客数の増加に対応していた。こういった状況のなかで、駅街区の基盤整備方針に基づきホームの移設と共に、列車がホームの両側を発着する島式としながら拡幅し、バリアフリー設備を整備し、明治通りに立つ橋脚基数を7本から3本に減らす工事が2009年より開始され、2020年の駅移設後から百貨店ビル内にあった旧駅舎を撤去し、新たに橋梁を架設する計画が進行している。

東急建設(株) 所長 池田仲裕氏
2023年現在の渋谷駅周辺鳥瞰図 TwinmotionによるPLATEAUとの統合3DCG

この大きなプロジェクトをBIM/CIMを活用して推進する東急建設の池田仲裕氏は、精度の高い3Dモデルで検証すると「“だいたいこんな感じ”ではなく、“絶対こうなります”と説明できる」と語る。これまでも駅の大規模な改良工事の計画に携わってきた池田氏は以前から、SketchUp ProとCivil 3Dを用いて3Dモデルを作成し活用していた。2019年にTwinmotionがEpic Games版となり、SketchUpとの親和性が高いことから池田氏はTwinmotionも使い始めたという。専門外注業者などに頼らず、自ら2Dデータの設計図を基に3Dモデルを作成しているが、3Dに時間軸を付与した4Dシミュレーションの制作はデータ量が非常に大きいため、本社のICT専門部署に依頼している。「時間の経過を加味した4Dシミュレーションで検証すると、施工現場で定点観測しているとき、計画時に作成したシミュレーションが現場で再現されているように感じられます。正確な情報を持たせた3Dモデルはイメージ図ではなく、完全なデジタルツインと捉えています」と池田氏は説明する。

移設後の東京メトロ銀座線渋谷駅 TwinmotionによるPLATEAUとの統合
複雑な施工の理解を確実にし活用範囲を広げる

池田氏は「部署ごとの設計・計画図を1つの3Dモデルに統合して検証することで、迅速に合意形成ができて早期に施工が着手できる」とメリットを語る。「営業線の大規模改良工事では、土木・建築部門だけでなく、軌道、電気、信号、運転、駅、営業など、それぞれの関係部署と合意形成をしなければなりません。

多岐にわたる関係部署の設計・計画図を1つの3Dモデルに統合

全部署と整合をとる必要があるのですが、設計・計画初期段階では部署間で不整合がたくさんあります。これは互いの部署で基準とする位置や概念が違うために起こることで、基準が別々のままでは事前に検証しづらい。施工現場でこうした不具合が1つ起きると工事が滞り、百数十万円〜数百万円の損失となってしまいます。事前に各部署の設計・計画図を座標を基準にして統合すれば、不具合や干渉が一瞬にしてわかるのです」。

2次元の平面・断面図で検証していたときは多くの図面を用意する必要があったうえ、関係者の理解を確実に得ることは難しかったという。「駅移設切替では当日だけで延べ5,000人ほどが関わりましたが、膨大で複雑な工程や手順について数回の打ち合わせで全員が確実に理解する必要がありました。3Dで施工ステップを細かく描くことで、軌道や各種設備、ホーム桁の架設、また上屋に仮置きした資機材の搬入出状況など、技術や経験の浅い若手の作業員であっても見ればわかるようになります。施工手順や時間工程を可視化したことで、各自の技術レベルに関わらず、同じイメージレベルで迅速かつ正確に伝わりました」と池田氏はいう。

銀座線渋谷駅移設切替時の施工状況を可視化
運転手から見た切替後の信号視認性

さらにTwinmotionを使ったシミュレーションをVRへと応用することで、より没入感のある3Dコンテンツとして体験できる。このプロジェクトの課題の1つに、従来新駅開業前に運転手や駅員が実施している車両やホームでの習熟研修ができない状況があったが、そこでVRが大きな活躍を見せた。「設計・計画時に作成した3DモデルからTwinmotionでVRを制作して東京メトロさんに見ていただいたところ、信号が見えづらい個所が3つほど挙げられるなど、各部門でさまざまな課題が見つかり事前に解決しました。実は、切替えの2週間ほど前にVRを体験した関係者が気づいたのですが、本プロジェクトの管轄だけで動かすことができない設置物が切替後の信号を遮る状態になっていて、もし誰も気づかずに始発列車を通していたら、運行後に発覚しても撤去できずに駅移設後の初電は止まっていました。また供用開始時の新駅舎のCGを切替えの半年前に作成していたので、その時点で駅員はVRでホーム上を歩いてサインなどの視認性を確認しました。様々な関係部署の専門的な観点で未来を検証することで、起こりうる課題が事前に顕在化され解決へとつなげられます」と池田氏は建築分野でTwinmotionを活用する方向の広がりを示す。

正確な精度を世界測地系座標で担保し表現の幅を広げる
渋谷駅東口広場デジタルサイネージ広告の視認性 TwinmotionによるPLATEAUとの統合

池田氏はさらに、渋谷駅周辺プロジェクトでもTwinmotionの活用を推進。道路や歩道から見える信号や巨大広告の視認性などを確認するために3DCGを用い、多方面にわたる関係者との早期合意形成を実現した。「道路上の信号や巨大なデジタルサイネージ広告が工作物で遮られて見えなくなると、補償の面等から大問題となります。3Dデータに正確なXYZ座標をたせてTwinmotionで制作しているので、不具合を正確に顕在化させて、的確な変更や修正がすぐにできるのです」と池田氏は語る。
3Dモデルの位置合わせは、国土地理が定義する世界測地系座標に基づいて行っている。そこに、現地で測定する3Dレーザースキャナーの点群データも統合し「3Dモデルには点群も含めすべてXYZ座標を持たせ、各パーツの位置関係の精度は座標で担保しています。こうすると、2Dの設計図や単に3D化しただけでは表現できない現地の障害物などの正確な位置や、クレーン等の挙動シミュレーションが詳細に検証できます」と池田氏は、ミリ単位で誤差なく確実に把握できるメリットを強調する。

また、池田氏は、国土交通省の3D都市モデルのオープンソース「PLATEAU(プラトー)」のデータもTwinmotionで統合して活用している。「応札時のプレゼン資料のほか、受注後の地元説明会や行政・道路管理者との協議などで使う際に、リアルな周辺構造物の情報や質感で表現すると説得力が出ます」とも語る。プラトーのデータがない地域でのプロジェクトに参画する場合、既存の測量データにレーザー計測や周辺構造物のテクスチャを組み合わせて、3DモデルのLOD(詳細度)を上げることもあるという。

PLATEAUデータが無い地域での周辺構造物の3Dモデリング

池田氏は、精緻につくり込んだ3Dモデルを早期にプロジェクト内に実装することの効果について、「モデルを設計・計画の初期段階から用意できれば、施工以外でも社内外でさまざまな活用が見込めることもわかっています。3Dモデルは発注者と一緒に活用し、受発注双方のベネフィットを昇華していくことが重要です。3Dモデルは言葉ではないですが、それと同じように重要な『何か』を伝えることができます。この『何かが何なのか』を詳細に作り込み的確に表現できれば、コストパフォーマンスとしては、計算できないくらいの効果を創出できます」と語る。大きな効果を上げるとともに多方面への利益につながる3Dモデルの活用を、池田氏は今後さらに推進していく考えだ。

CORPORATE PROFILE

会社名 東急建設株式会社
創業 1946年
事業内容 総合建設業。「安心で快適な環境づくり」を企業理念として、渋谷や東急線沿線の開発で培ったまちづくりのノウハウを活かし国内外において建設事業を行っている。
本社 東京都渋谷区
代表者 代表取締役社長 寺田 光宏