事例レポート

株式会社日本設計 アイスクウェアド

虎ノ門ヒルズの本社オフィス移転で発揮されたArchibusによるBIM-FMの高い利便性

株式会社日本設計
常務執行役員 インテグレイテッドデザイン担当 情報システムデザイン部長 プロジェクトインフォメーションアーカイブ室長 成田 治 氏
インテグレイテッドデザイン部 主管 寺崎 雅彦 氏
情報システムデザイン部 生産系マネジメントグループ長 兼 設計技術部 BIM支援グループ長 吉原 和正 氏
設計技術部 BIM支援グループ 上席主管 塩見 理絵 氏

総合設計事務所である日本設計は、本社オフィスを虎ノ門ヒルズ森タワーに移転した。設計事務所にふさわしい、クリエイティブなオフィスをプレゼンテーションする場となっている。
オフィスの使い方がフレキシブルになる中で、日本設計はオフィス運用とFMのためにBIMデータを活用。そのデータプラットフォームとして、アイスクウェアドが国内で展開している次世代型IWMS/FMプラットフォーム「Archibus」を選定した。
BIMデータをArchibusで利用することの実際や、どのようにFMで活用しているのか、日本設計のインテグレイテッドデザイン部、情報システムデザイン部、設計技術部の方々に話を伺った。

株式会社日本設計
常務執行役員 成田 治氏(写真1番左)、設計技術部 塩見 理絵氏(写真左から2人目)、
情報システムデザイン部 吉原 和正氏(写真左から3人目)、インテグレイテッドデザイン部 寺崎 雅彦氏(写真1番右)
本社移転プロジェクトで家具什器のFM管理に着手

建築から都市、環境づくりまで手掛ける総合設計事務所の日本設計は、昨年から今年にかけて、本社を虎ノ門ヒルズ森タワーに移転した。常務執行役員の成田 治氏は、本社を移転したことの背景を次のように語る。「社内では移転について“think ++ nexus”というデザインコンセプトを立て、2021年秋から計画し、2022年に工事を着手しました。段階的に移転し、フルオープンしたのが2023年1月です。働く場所や時間、働き方が大きく変わる中で、自分たちの業務も再デザインすることとし、以前は約8,900平米だった床面積を、2フロアで6,800平米に集約しています。私たちは都市開発やまちづくり、建築に関わるので、街や働く場所の環境、時間の変化を実感しながら働くことを考えています」。

コロナ禍を経て「共有フレックスタイム制」となった日本設計。これは本社オフィスであっても、自宅やサテライトオフィスであっても5時から22時までの中で自由に働く時間を選択し、チーム内でコミュニケーションを取りながら働くことを意味している。設計を担当したインテグレイテッドデザイン部の寺崎雅彦氏は「オフィスづくりではリアルで集まることの価値に特化し、偶発的な出会い、みんなでつくる共創の場、モノに触れる中での日常的な学びが得られるようにと考えました」と語る。街の雰囲気を取り込む一筆書きの動線の「ミチ空間」に付随して2カ所の階段を設け、上下階を立体的につなげたほか、360°の全方位に視界が開けたフロアで「都市を感じるオフィス、都市のようなオフィス」というコンセプトのもと、方角によってエリアごとにテーマを決定。インテリアの色や仕上げ材の種類、家具や什器をエリアに合わせて採用し、エリアごとの特性を出していった。

また、寺崎氏は「私たちはクライアントや施工者を含めて、チームでコミュニケーションをとりながら働くことを重視しています。社員はフリーアドレスですが、一部チームの裁量で、什器などを自由にレイアウトできるエリアを設けています」と語る。そのほか、外壁に近く外気や日照の影響を受けやすいゾーンを含め、照度や室温のバラツキを活かした環境を用意して選べるように設定。個人で好きな場所を登録しておけば、AIでリコメンドされるアプリも開発中。バイオフィリックデザインで取り入れた植栽も、昼光を利用するように配置している。「こうした取り組みの中で、それぞれに個性をもつ家具什器を選定したため、種類が多く管理が煩雑となる。それらを効率的にFM管理できるように、データ連携を進めることにしました」と寺崎氏は説明する。

BIMの建物データベース活用によるFM管理の合理化

情報システムデザイン部の吉原和正氏は「設計段階から家具什器のBIMデータを活用することで、維持管理に繋げようとしています」と狙いを語る。この管理のために使用しているのがArchibusで、まずは維持管理に必要な情報をAutodesk Revitのパラメータに入力した後に、Archibusで固定資産番号やコンディション、不具合状況などを登録して管理する。この際、メーカーの提供するBIMオブジェクトでは細かくなりすぎるため、基本的に自社でファミリーを作成しているという。

設計技術部の塩見理絵氏は「BIMモデルは設計段階からも活用されていましたが、そのモデルに対して今回は資産管理に必要な家具什器のモデルを入れています。FM用の簡単な外形寸法のモデルを用意し、メーカー名や製品名、品番、価格など、維持管理のために必要なパラメータに絞り、煩雑で重いデータとならないようにしています。Archibusでデータをフィルタリングすれば、什器家具をブルーは既存で持ち込んだ家具、オレンジは新しく購入したものというように色分けしながら見ることができ、誰が見てもわかりやすくなります」と説明する。さらに、RevitのパラメータとArchibusのパラメータの対応表を作成したうえで、場所を特定するエリアも家具什器と合わせて登録している。

吉原氏はさらに「最新のArchibusの機能として、Revit側で設定した3Dビューや2DビューをArchibusで利用できることは大きなメリットです。これは以前にForge Integrationといわれていた機能で、設計での作業環境上にあるRevitデータとArchibusがシームレスに繋がります。また3Dで表示させると、例えばチェアかベンチかといった家具の種類を判別しやすいことを実感しています」と語る。なお、家具什器は頻繁に入れ替わっていくことが見込まれるが、データを最新の状態にしておく維持管理は総務が担当することになるため、通常の実務の範囲内で運用できるかを今後は見ていく。また、大幅なレイアウト変更が生じる場合などは、BIM支援グループと連携することを予定しているという。

設計データとの連携が設計事務所の価値を高める

今回、日本設計が使用しているArchibusはBIM連携を強化した最新バージョンで、日本設計の要望に合わせてArchibus開発元である米国Eptura社のR&Dがカスタマイズしたものだ。Autodesk Platform Serviceとの連携が強化されており、Autodesk Construction Cloudの機能を広く使うことができるとしている。吉原氏は「例えば、Revitで設定したシステムの情報を取り込むこともできるので、ダクト系統や配管系統などを色分けしながら検索したり、Archibus上で3Dオブジェクトとして扱えます。2DビューをRevit上で設定しておけば、そのままArchibus上でユーザーが利用することも可能です」と説明する。

今回は設計で作成したBIM及び建物データを維持管理のためArchibusで引き継いで使っているが、吉原氏は「データの情報量や詳細度としては、基本設計でのステージ2や実施設計前半のステージ3のBIMモデル程度のレベルが適当ではないか」とみる。また既存の建物にArchibusを利用する場合でも、比較的簡易なBIMモデルであってもFM用としては充分に使用できると吉原氏は予想する。
機能が強化され大幅に進化した最新バージョンのArchibusについて、吉原氏は「Revitとの親和性が高いことがやはり一番のメリットです。Archibusのデータベースは、建物データを扱う為に必要な項目が一通り揃っている状態なので、今後さまざまな可能性を探る中で、機能の拡張性の高さやデータの柔軟性の面からも、とても高く評価しています」と語る。吉原氏は「設計事務所がFMを新規業務として想定していなくても、FMに関する知見を深めることで、ライフサイクルコンサルティング業務や維持管理要件策定業務を担えるようになれば、BIMに付与する情報の高度化のみならず、新たな設計の提案にも寄与すると思います。大規模で複雑な施設の維持管理・運用は今後デジタルで効率化しなければ、人の手では管理しきれなくなることが予想されますので、地道にBIM-FMの知見や実績を積み重ねていくことが肝要だと考えています」と語った。
設計で作成するBIMデータをBIM-FMに活用していく需要が今後一層高まる中で、Archibusの活用は設計事務所の役割を広げ、競争力強化に確実に繋がるだろう。

CORPORATE PROFILE

会社名 株式会社日本設計
創業 1967年
事業内容 建築、造園、土木およびこれらに関連する設備 、構造、インテリア等についての企画、設計、工事監理ならびに調査鑑定。都市・地域計画・都市再開発事業計画。コンピュータによる情報処理および調査・計画など。
本社 東京都港区
代表者 代表取締役社長 篠﨑 淳