美保テクノス株式会社 オートデスク
ISO19650に則ってBIMワークフローを運用し、経営戦略のためのBIMを推進
美保テクノス株式会社
代表取締役社長 野津 健市 氏
執行役員 BIM戦略部長 新田 唯史 氏
建築工事長 岡本 雄介 氏
BIM戦略部 主任 絹田 裕輔 氏
BIM戦略部 副主任 山田 香織子 氏
鳥取県米子市に本社を置く美保テクノスは、創業60年以上の歴史を持つ総合建設会社で山陰地方を中心に数多くの実績がある。約20年前からオートデスクのBIMソリューション「Autodesk Revit」を導入し、業務で活用してきた。野津健市氏が社長に就任してからは、より一層BIMやDXを加速させ、経営戦略のためのツールとしてBIMを位置づけて利活用を進めている。
それに伴い、同社はISO19650を取得。「Autodesk Construction Cloud」によってCDE環境を構築し、ISOに基づいたワークフローでBIMの活用を進めている。今回、同社のBIMの活用プロセスやオートデスク製品を用いた取り組みのポイントなどについて、美保テクノスの代表取締役社長 野津健市氏、執行役員 BIM戦略部長 新田唯史氏、建築工事長 岡本雄介氏、BIM戦略部 主任 絹田裕輔氏、BIM戦略部 副主任 山田香織子氏の5名にお話を伺った。
美保テクノスの経営的なBIM戦略と組織作り
「当社では、BIMを経営戦略的なものと位置づけ、これに沿った組織づくりを行っています。建設会社として我々がBIMに取り組む目的は工事の生産性や品質、安全性を向上し、お客様から喜ばれる仕事をすることです。もっと言えば、BIMに取り組むことで、建設会社の経営にとって最も大事な「仕事を取ること」につなげていきたいと思っています」。こう語るのは美保テクノスの代表取締役社長 野津健市氏だ。
美保テクノスは、「Autodesk Revit」を2004年に導入。以来BIMのメインソフトとして活用してきた。執行役員 BIM戦略部長の新田氏は「2007年に立ち上がったRUGへの参加などを通して技術的なスキルを向上させてきました」と振り返る。2010年には社内にBIMを専門とする部署IPDセンターを立ち上げ、実案件を通したRevitの使用を行ってきた。
「2017年頃にDX化の流れもあり、BIM戦略部に組織改編しました。美保テクノスの武器としてBIMをより推進していく流れが加速したのもこのあとくらいです」と新田氏。その大きなきっかけが、現在の社長の野津氏である。野津氏はBIMソフトを経営に寄与するツールとして目を付け、全社的にBIMの活用を行うことに決定。そして、2020年に美保テクノスはBIMのプロジェクトチームを発足させ、さまざまな技術開発やモデリングに関しての研究をしながら、社内でBIMを効率的に運用する最適解を模索した。
試行錯誤を繰り返す中で「美保テクノスの新社屋建設プロジェクト」と「鳥取県西部総合事務所のPFI事業」という自社設計・施工の案件を受注。2022年頃に同時に両プロジェクトを行うこととなった。そこで野津氏は両案件で可能な限り竣工までBIMをフル活用するミッションを与え、実践的な試行が進められた。「2件のプロジェクトでは、BIMのクラッシュチェックやVR、仮設計画の検討といった同様のアウトプットを行いました。しかし、現場からの評価には2件に大きな差が出たのです」。
さまざまな分析の結果、鳥取県西部総合事務所の案件は好評価、新社屋の案件は不評だったという。特に新社屋の現場監督からの評価は低かった。「不評の現場にはBIMをやることで、現場監督にかなりの負担が掛かっていたことが判明したのです」と野津氏。
新田氏は「BIMの社内運用プロセスを見直すという結論に至り、当社はBIMへの考え方やプロセスを変える決断をしました」と語る。そこで、同社のBIMワークフローは、ISO19650をベースに改革され、現在はISOに基づいたBIMによる情報生成が行われるようになった。
ISO19650に基づくワークフロー構築と運用を実践
「当社では、ISO19650をベースとしたBIMによる設計情報の生成プロセスを定め、“着工までに正確な設計情報を作る”をキーワードかつ課題として設定しています。社内では“25個のお団子”と呼び、わかりやすく表現しています」と新田氏。美保テクノスでは、このBIMプロセスに沿って設計部が動き、基本的にBIM戦略部以外の設計者や施工現場の担当者などにはISOを感じさせないことを徹底しているという。
野津氏は「つまり決まった手順で、必要な情報を適した時に提供するということです。役割を明確に分けてISO19650に則ってワークフローをきちんとやれば、施工側も快適に仕事が進められます。やはりBIMは2D図面よりもイメージが湧きやすいですし、生産性の向上に繋がるのは確かです。その点を現場にも理解してもらえるよう、このやり方で進めることに決めました」とポイントを語る。
さらに同社は、「プロセスコントローラー」という新しいポジションを設置。この担当者がISO19650に基づくBIMプロセスをコントロールすることでスムーズに進むという。BIM戦略部の絹田氏は、「基本的にプロセスコントローラーは設計内容などにはタッチしません。私は、ISOに基づいたプロセスがきちんと進行しているかをチェックするのがメインです。もちろん設計プロジェクトの責任者や、現場監督に情報を提供したりもします」と説明する。一般的なBIMマネージャーよりも役割を絞ることで、正確にプロセス管理できるよう同社は工夫したのだ。
一方でISO19650を進める上で重要となるのが、CDE(共通データ環境)の構築やデータ管理である。同社のCDE環境は、オートデスクのAutodesk Construction Cloud(以下、ACC)のAutodesk Docsを導入している。
BIM戦略部の山田氏は「ACCは約2年前に導入しました。社外のアドバイスも受けながら、半年ほど掛けてCDE環境の研究や整備を行ったのですが、情報マネジメントにおいて重要なのは、全使用フォルダに意味を持たせ、作業と共有フォルダの分担が整理されていることです」。また、CDEにおいて各フォルダに対してのアクセス権限などのセキュリティも大切になるが、その点もACCはクリアだと山田氏は語る。このようにISO19650を着実に順守するのが、美保テクノスのBIMのワークフローの運用の肝になっている。
現場でのBIMの活用と実際のメリット
「BIM戦略部が裏でサポートすることで、現場はあまり意識せずBIMを実践できています。一般的に言われているフルBIMとは異なり、弊社ではデータをフルに使うことをフルBIMと呼んでいます」と新田氏。この結果、現在では施工部門からもBIMのサポートの要請も出てくるようになってきたという。
建築工事長の岡本氏も「Revitを使った現場を私自身初めて経験した時は、BIM戦略部の人が現場に半常駐してサポートしてくれたことで、クオリティが上がったと思います。必要な時に必要な情報がBIMから渡されるという形でした」と手応えを語る。このように現場が必要なタイミングで必要な情報を渡し、ジャストインタイム的にBIMデータ活用がされている。
そして、同社は今後を見据えた動きも始動させている。「外部からのBIM推進についての相談も少しずつですが受けつつ、より良い仕事をできるよう仲間を増やす取り組みもだんだんと始めています」と新田氏。加えて新たなツールとして、ConnecT.one Insightも開発中で外販する予定だ。「我々の肝は、ISO19650のプロセスに沿ってBIMを進めることです。そのため、ACCに格納された情報の見える化ツールを開発中です。これは当社の絹田や山田のようなプロセスコントローラーなどがACCの中に、いつ何のデータが入れられ、予定どおりの品質になっているかなどを確認・視覚化できるツールです」。これにより、ACCをより使いやすくし、効率よくISO19650を遵守することが可能になるという。
「現在は、米子アリーナ整備等事業の建設工事を受注したこともあり、新たな大型のBIMプロジェクトが進行中です。“良い仕事を、早く、安く、安全に“という当社の社是のとおり、BIMを武器にさらに短工期や低コスト化、安全施工などを実践し、お客様に品質の高い建物を提供していきたいと考えています」と社長の野津氏はさらに高みを目指す。
CORPORATE PROFILE
会社名 | 美保テクノス株式会社 |
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設立 | 1958年 |
事業内容 | 建築・土木に関する工事の施工および測量・企画・調査設計・監理並びにコンサルタント業務など |
本社 | 鳥取県米子市 |
代表者 | 代表取締役社長 野津 健市 |