事例レポート

三建設備工業株式会社 NYKシステムズ

明確な目的を持ったBIM化とデータ共有で目指す現場の生産性の飛躍的向上

三建設備工業株式会社
DX推進本部 DX推進部 主査 日比 俊介 氏
DX推進本部 DX推進部 内田 泰斗 氏

空気調和設備や給排水衛生設備の設計・施工・メンテナンスを主な事業とする、三建設備工業。同社では建築設備の設計と施工に関わる管理システムを、NYKシステムズの建築設備3次元CAD「Rebro(レブロ)」を中心に構築した。この管理システムでBIMモデルに含まれるデータを見える化することで、現場の進捗管理に役立てている。
また、発注や工事費の管理についても同システムを用いて効率化を進め、さらにRFIDの導入も進めている。同システムの開発にあたって鍵となったのは、Rebroの特性を最大限に生かすことだったという。
開発に関わった三建設備工業 DX推進本部 DX推進部の日比俊介氏と内田泰斗氏に背景と経緯、そして、現状と展望について伺った。

  • 三建設備工業株式会社
    DX推進本部 DX推進部 主査 日比 俊介 氏
  • 三建設備工業株式会社
    DX推進部 内田 泰斗 氏
BIMモデルのデータをCSV形式で活用し現場を可視化する

三建設備工業が構築したのは、BIMモデルの図面データをCSV形式で入れるとデータが加工され、現場の進捗や材料の発注状況などが見える化するシステムである。BIMモデルのデータを利用し、部材の属性・ステータスを書き換えていくことで進捗管理などさまざまな場面で活用でき、さらにはデータを循環させて運用することができる。このシステムを考案し開発したのは、同社で数多くの現場を経験している日比俊介氏とエンジニアの内田泰斗氏だ。3年ほど前にRebroを導入し運用を始める際、BIMのデータを進捗に応じて書き換え、循環的に運用するα版の開発に着手した。

α版のフローのイメージ

日比氏は「Rebroは、情報をCSV形式で入出力することが手軽にできる点で際立っています。特に設備業ではBIMに描かれている部材を組み付けて施工していくので、Rebroにある加工などの情報がダイレクトに出せることは扱いやすく有利でした」と振り返る。Rebroを起点とし、図面データをCSV形式でMicrosoftのPower QueryやPower Automateなどのツールを使いながら、必要なデータを抽出して合成・分解することで、循環させる仕組みをつくり上げた。「誰でも構築できる汎用的な構成にしています。トライアル&エラーがしやすいようにシステムを構築しました。現場員には新しい作業が発生して負荷が増えないように気をつけ、得られる効果を社内に訴求しました」と日比氏は続ける。α版ではCSV形式のデータを複数出力するかたちで自分が所属する名古屋の現場で適用していったが、BIMから書き出すCSVデータを1つとすることで現場員の負担を軽減するβ版を構築し、1年ほど前から全国の現場に展開している。
日比氏が構想し、主にインターフェースの開発に携わったのは内田氏である。「従来は、例えば配管をメーターやトンの単位で扱っていたものを、個数で定量化していく仕組みにするのにはBIMが適しています。1つずつのユニークな部材にすることが、BIMで可能になるからです。それらの部材に対して、進捗や施工のパラメータを付与したり、パラメータを書き換えたりすることで、工事の進捗や資材の発注状況についての見える化につなげていくことが可能になります」と説明する。

β版のフローのイメージ
現場に関わる広範囲の人員が情報を共有できる

日比氏は「三建設備工業はBIMをどう扱うかではなく、現場から離れたオフサイト化を実現するためにBIM化をしています」と語る。同社では施工現場だけでなく、現場より少し上流の課長、工事長、部署長、また支店側のバックオフィスの管理するスタッフが、BIMデータを活用することであらゆる現場の情報を単一のかたちで見ることができるイメージがある。
「資機材の発注状況や施工状況などのステータスの可視化を実現しています。その際、誰が見るかをポイントにしました」と日比氏は語る。RebroのデータをCSV形式でシステムに入れ、希望日を設定することで、施工現場のエリアごとの資材をいつ納品したいと代理店に発注するアクションが行われる。「Rebroでは、図面作成時に特定の条件にもとづいて定義づけができる仕組みがあり、代理店の取扱いコードが裏で紐づくため、そのデータをメーカーなどに送れば代理店はこれまでの曖昧な表現の文字での発注と違い、迷うことなく発注できます」と内田氏はいう。日比氏も「代理店側でもベテランの社員が減り、俗称や暗黙的な記号の変換でエラーが起こることが多くなってきました。我々サブコン側で、間違いなく発注する仕組みをつくることに注力しました」と背景を語る。

Rebro上での代理店コードのリンクの作成

そして、電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きする「RFID」という自動認識システムを用い、進捗管理の作業を簡便にすることも導入した。例えばプレカットした配管にRFIDタグを貼った状態で納品してもらい、施工が完了した配管のタグは作業員に事務所へ持ち帰ってきてもらう。それらのタグをリーダーで読み取ると、システムでは「未施工」から「施工」のステータスに書き換わり反映される。「ユニクロの無人レジのように、1つずつではなく同じ動作のアクションを複数のタグに簡便に実行できるのが大きなメリットです」と内田氏はいう。

施工の進捗を誰でも見られるようにするメリット

システムでは、発注と施工の状況が自動的にデータから吸い上げられて見えるようになる。「職人が現場に1日でどれだけ入ったかという労務情報、また労務単価などのベースの情報を加えることで、必要な施工の総量に対してどれほどの人工が必要であり、施工日数がどれほどかかるかの予測を出すことができ、フロア単位の分類別で加工の数量や費用の算出ができます。こうした情報はこれまで属人的なやり取りが主体で、管理側からするとつかみづらいものでした。本システムでは一旦書いた図面をシステムに放り込むことで、さまざまな金額が即座に出てきて把握できるので好評です」と日比氏はいう。
進捗管理では、ベースとなる情報に現場の情報をまとめてPower BIでグラフ化し、それをRebroに戻して図面上で視覚化することもできる。例えば「未施工分」というボタンをクリックすると、図面で未施工の範囲に限定されて色分けされ、人工や施工日数が再計算される。「再計算された日数が10日と出て、建築側から8日以内に完了させてほしいと言われているようであれば、人工数を増やすといったアクションにつなげていくように、直感的かつわかりやすく現場員でも使える仕組みになっています」と日比氏は語る。算出されている歩掛りと1日の施工量と見比べて、ペースが落ちている場合には原因の分析にも役立てることができる。

Rebroの3Dモデルと進捗率グラフの連携

現場に応じて状況を把握できる点にも、日比氏と内田氏はこだわった。「現場の施工状況は、QRコードをスマートフォンで読み取れば、業者や作業員が誰でも見られるようにしています。この時、データの羅列がただ見えたとしても意味がなく、それぞれの立場でどのような情報をどう見たいのかによって見せ方を変えています。例えば、配管の施工状況がわかり、次工程の自分たちはいつからそのエリアに入って仕事ができるのかといった情報を見られるようにしています」と内田氏。日比氏は「新入社員であっても、協力業者との打ち合わせでは数値にもとづいて工程を進めることができるようになりました」と成果を語る。

平面図のQRコードの読み取りイメージ

「現場の生産性が20年前から変わっていません。それは、ナレッジの問題が大きかったのです。データを共有して活用していくことで、現場の生産性は飛躍的に向上すると考えています」と日比氏。
将来的にはシステムやデータを協力業者にも共有したいと日比氏は考えている。「少なくとも自社の情報は可視化して毎日どのような状況かを把握できる方が、間違いなく生産性が上がるはずです。協力業者や顧客を含めたステークホルダーに三建設備工業ならではの安定した品質を届けることができますし、最終的には、データ共有のエコシステムをつくるためのプラットフォームに当社がなっていきたい」と力強く語った。

CORPORATE PROFILE

会社名 三建設備工業株式会社
設立 1947年
事業内容 建築設備のエンジニアリング技術を軸にした、快適性と省エネ性を両立させた建物に関わるさまざまなサービスの提供など
本社 東京都中央区
代表者 代表取締役社長 松井 栄一