株式会社EARTHBRAIN Epic Games Japan
Unreal Engineによるデジタル空間における建設現場の再現
株式会社EARTHBRAIN
高没入・デジタルツイン施工グループ シニアエンジニア 大西 喜之 氏
高没入・デジタルツイン施工グループ 谷口 亮 氏
EARTHBRAINは、建設機械の大手メーカーであるコマツをはじめとする4社で2021年に設立された企業で、「Smart Construction®」の開発・提供を行っている。Smart Constructionは、地形や建設機械といった現実世界での建設現場の情報をデジタル化し、サイバー空間上で最適な施工計画を立案できるとともに、リアルな施工へフィードバックできるソリューションだ。
同社の高没入・デジタルツイン施工グループは、Epic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine」を活用してデジタルツインを構築し、建設現場の課題解決を行う業務と、工事の事前検討や段取りを詳細かつ円滑に行えるSmart Constructionの新サービスの開発も進めるなど、新しい取り組みを積極的に行っている。
今回、Smart Constructionはじめ、ゲームエンジンの活用の具体的な事例やその経緯などについて、EARTHBRAINの大西喜之氏、谷口亮氏にお話しをお伺いした。
EARTHBRAINの持つソリューションや新たな取り組み
EARTHBRAINの「Smart Construction®」は、建設生産プロセス全体のあらゆるデータをICTでつなぐことで、測量から検査まで現場のすべてを見える化し、安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場を創造していくソリューション。現場の点群データを生成するSmart Construction Edge、現場を見える化するSmart Construction Dashboard、現場の状況にあわせて最適な施工計画を立案するSmart Construction Simulationなど幅広いサービスを備える。高没入・デジタルツイン施工グループの谷口氏は、「Smart Constructionは、建設現場の3次元データなどを用いてサイバー空間の中で最適な施工を実現し、リアルな施工へフィードバックすることで価値を創出します」と特長を説明する。
また、大西氏は「我々は、社内の中でも新しい取り組みや開発を行う部署です。Unreal Engine(以下、UE)で、お客様からご相談いただいた現場のデジタルツインを構築し、施工提案や問題解決を行う業務を行っています。一方で、建設現場における施工検討や段取りの仕組みをSmart Constructionに新たに搭載すべく企画・開発を進めています」。実はもともとコマツの生産系の研究部署に所属していた大西氏。生産における段取りの観点から、当時から施工における事前検討の重要性を認識していた。「当時、コマツが掲げるSmart Constructionを推進するほか、AR/VRの開発に伴い3Dモデリングも独自習得。その経緯からゲームエンジンを使用して工事の段取りの部分を効率化できるのではと以前から考えていました」と大西氏。それをきっかけに、EARTHBRAIN に移ってからはUEで新しい取り組みを続けた結果、高没入・デジタルツイン施工グループが2023年に発足されたという。
谷口氏は「私は地理情報解析が専門で、施工に使用される各種3次元データを入出力する仕組みの考案や精度検証を行っています。ゲームエンジンによる都市開発やまちづくりの事例は以前からキャッチアップしており、UEの有用性は理解していました。その経緯もあり、現在はデジタルとリアルの世界を繋ぐ仕組みを作り、建設現場でより役に立つサービスの提供を目指しています」と前を見据える。
デジタルツイン構築による施工現場の課題解決
今回、大西氏と谷口氏は、同部署の取り組んだ事例を4つ紹介してくれた。
1つ目は、香川県の安藤工業の砂防ダムの工事。大西氏は「砂防ダムの施工検討に、デジタルツインを構築して段取り検討を行いました。地形は点群データで取り込んで調整したり、ダンプトラックの搬入経路や、どこに作業ゾーンを作って建設機械を配置すると手戻りが無いかなど、3Dオブジェクトを実際に置いて検討しました」。また、切り立った崖への施工アプローチの順番も検討し、現場の課題をわかりやすく伝えることができたという。
2つ目は、同じく安藤工業のため池の改修工事の事例だ。ため池には仮設道路がもともとあるが、ダンプトラックの通行の不安やクレーンがどこまで届くか、そのほかにも施工方法や地元地権者とのコミュニケーションなどが事前課題だった。ここでもデジタルツインを作成し、発注者側も含めた検討会を実施。「一番の課題は、仮設道路に高低差のあるヘアピンがあり、車が安全に曲がれるかでした。実際にダンプトラックのオブジェクトを走らせて危険性を確認した上で、土嚢を積んで道路を拡幅し余裕を持って曲がれるようにしました」と大西氏。さらに取水施設のコンクリート打設では、クレーンの取り回しや実際に運転席からの視点で作業性を確認。堤体の掘削の施工補法では2案を比較して検証した。「その後の地権者への説明会では、平面図では一般の方が想像できない部分も3Dで再現されていれば説明不要でした。階段の位置や排水バルブの作業性など老若男女問わず一目瞭然です」。これは、デジタル空間ですべて合意形成するという大西氏の構想が実現できた例で、まさにデジタルとリアルが繋がった瞬間だという。
残り2つは、他部署による顧客提案に際して、技術支援を行った事例を紹介する。
3つ目は、和歌山県の木下建設での、UEで実際の河川工事の現場をリアルに再現した事例だ。谷口氏は、「護岸ブロックの修復工事で、ここでは工事の施工プロセスのほか、川の水が施工現場に流入しないかといった検討を行いました」。UEは、物理シミュレーションの再現がしっかりできるため、こういった検証が可能だったと谷口氏は評価する。「土嚢の部分はQuixelから取り込み、オブジェクト置いて検証しました。施工中の地形は、3次元データ上に直接作図が可能なSmart Construction Design3Dで作成した設計データを変換し、UEにインポートしました。実際に、適切に施工可能かを現場監督の方などに画面を見て確認いただきました。完成形状は3次元設計データをインポートし、将来像もはっきり共有できた事例です」と自信を見せる。
4つ目の静岡県の特種東海フォレストの事例は、山を削って急勾配に法面作るという難しい施工での活用事例だ。ドローンで撮った点群データと3次元設計データを重ね合わせ、施工中の地形や将来的な地形を再現した。「途中地形に建設機械モデルを配置すると、建設機械の足場が狭く転倒のリスクがあることが判明しました。そこで、建設機械が安全に作業できる足場の地形をデジタルツイン上で作成し、作業イメージの共有を図りました」と谷口氏。以前は3D CADで時間を要した検証だが、ゲームエンジンによって即座に地形編集できる点はメリットだという。
Unreal Engineのメリットとさらなる展開
これらの事例に活用したUEについて、「初心者でも敷居が低く、かつ性能が高いゲームエンジンはUnreal Engineだと思います。最初は動画などで勉強し、私の場合は約1ヵ月で、自分でモデリングした車両を稼働させるレベルまで使えるようになりました」と大西氏。また、「Blueprintで開発を進められる点が便利で、私のようにプログラムが書けなくても開発ができる点も良いですね。最近でこそAIの支援を受けてコーディングもしますが、基本的にBlueprintベースで開発します」。谷口氏も「地理情報の視点で見ても、現実空間や将来像の再現などをUEで取り組んでいる方たちは非常に多いです。多くの方の知見がある中で利活用できるのは大きなメリットですし、その中で施工に関わるデータを使って、リアルの建設現場にフィードバックしていく知見はEARTHBRAINならではの部分だと思うので今後の開発や提案により活かしたいです」と前向きだ。
「将来的にはゲーミフィケーションの要素も取り入れ、誰もが簡単にデジタル空間に建設現場を再現でき、さらに現実空間でもデータ利用できる世界を作りたいです。そしてBIM/CIMのデータがすべて繋がり、さまざまなデータで受け渡しできるようになれば、建設業界の将来はさらに良くなると思います」。Unreal Engineを活用し、新しい展開が期待されるSmart Construction。今後の展開がますます楽しみだ。
CORPORATE PROFILE
会社名 | 株式会社EARTHBRAIN |
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設立 | 2021年 |
事業内容 | 建設業向けデジタルソリューション(現場可視化デバイス、プラットフォーム、アプリケーション)の開発、提供、保守など |
本社 | 東京都港区 |
代表者 | 代表取締役社長 小野寺 昭則 |