札幌駅総合開発株式会社/株式会社日本設計 アイスクウェアド
ArchibusとBIMで進化する札幌駅周辺施設の管理
札幌駅総合開発株式会社
施設管理本部 施設部 設備チーム 四方 雄大 氏
施設管理本部 施設部 電気チーム 木下 寛 氏
株式会社日本設計
情報システムデザイン部兼設計技術部 吉原 和正 氏
プロジェクトデザイン群 稲崎 稔 氏
設計技術部 BIM支援グループ 近藤 美登里 氏
北海道新幹線の延伸に向け、大規模な再開発が進むJR札幌駅エリア。多くの人々が利用するこの注目のエリアで「つくるだけでなく使うBIM」を目指し、札幌駅総合開発は、将来の管理建物の増加に備え、BIMデータを活用して既存建物のデータを一元管理・可視化する取り組みを進めている。
それに伴い、このプロジェクトをマネジメントするのが日本設計であり、同社がFMの活用において推薦したのが、アイスクウェアドが販売するEptura社の次世代型IWMS/FMプラットフォーム「Archibus」である。札幌駅総合開発が、日本設計とアイスクウェアドの双方と契約を結び、3社はチームとして、このプロジェクトを推進している。
今回、その概要やBIMデータの作成、Archibusの活用のポイントについて、札幌駅総合開発の木下寛氏と四方雄大氏、日本設計の吉原和正氏、近藤美登里氏、稲崎稔氏の5名に詳しくお話を伺った。
大規模な複合施設でのFMのためArchibusを導入
「JRタワーにおけるArchibus導入プロジェクト」は、札幌駅に直結する複合施設「JRタワー(2003年竣工)」と地下エリア「アピア(1999年竣工)」日本設計にて設計・監理を担当したプロジェクトでそれら既存建物をBIM化しデータを一元管理していくもの。隣接する敷地で、将来予定されている大規模な複合施設の建設を見据えたプロジェクトでもある。
日本設計では、システム全体の構築支援やプロジェクトスケジュール、マネジメントを稲崎氏が所属するプロジェクトデザイン群がハンドリング。BIMの作成はすでに2018年から吉原氏と近藤氏が所属するBIM室が取り組んできた。アイスクウェアドは、「Archibus」のシステム設計、カスタマイズ、データベース作成などを受け持つ。
札幌駅総合開発の施設部では、施設の保全・設備投資等を所管している。木下氏は電気設備関係の代表として、四方氏は建築関係の代表としてプロジェクトに参画している。
吉原氏は「将来、高架下商業施設や再開発ビルの建設が予定され既存のJRタワー、アピアを併せて管理するとなると、これまでの方法では難しいと考えていた札幌駅総合開発様がBIMに目を付けられ、その後検討していく中で、Archibusを活用して施設管理の効率化を目指すことになったのです」と振り返る。建物の図面類や報告書などの情報は、紙やPDFファイルが多く、建築・電気・機械の各チームで管理しているため属人的で検索することも難しい。特に設備機器の情報は、修繕工事を担当した協力会社などから状況を聞き出すことも多いという。また、店舗エリア区画の情報も整理や共有がされていないなど、人手に頼った管理手法では限界が出てくることが予想されたので、DXによる情報共有が図られたのである。
Archibusでは、データ管理と業務支援を主に行う。具体的には建築関係のスペース管理、設備関係のアセット管理、図面・書類のドキュメント管理がデータ管理である。そして、各種機器の更新などの中長期保全計画作成支援、保全点検業務の情報をシステムに盛り込む支援、何百ものテナントの毎月の光熱水費の請求を即座にできるようなシステムをつくる光熱水費請求支援が業務支援にあたる。すべてを2022年度から導入して基本方針を策定し、2023年度からシステムを運用しながら適宜修正。2025年度から安定的な稼働を目指している。
Revitデータとの連携を重視して導入
「FMソフトにArchibusを選定した主な理由は、機能面とRevitとの相性が良いことでした。3Dビューワとの相性も良く、JRタワー関連施設で行う維持管理の方向性と親和性が高かったのです」と吉原氏。2018年のBIM構築の方針策定時点でRevitデータは、維持管理に使用することを見据えて過剰に情報を入れすぎない点を考慮した。例えば壁は簡略化したモデルとし、設備電気では照明器具などの末端までは入れていない。施工BIMのように細かい情報を入れるとデータが膨大になり、逆に操作しにくいためだ。吉原氏は「本施設は商業用途の占める割合が高いこともあり、アセットについてはテナント工事で変更が生じる部分はモデル化せず、機器やメインルートにとどめています。最新データを継続的に維持していけるように、扱う属性情報についても、主要能力やメーカー名、型番程度の必要最低限のものに絞っています」。
近藤氏も「設備は実施設計初期並みのレベルですが、建築では部屋の大きさと室名、壁や床はシンプルなモデルとし、シャッターやエレベーターなどは簡略な表現で入力しています。部屋には、用途区分や負担区分といった情報を入力することで、Archibusではそれぞれの色分け別に表示が可能です」と説明する。
稲崎氏は「Archibus上で設備をクリックすると、それぞれの仕様の画面を表示することができます。設備の細かい情報をExcelで取り出すこともできるので、例えば設備機器台帳のExcelで耐用年数に近づいた機器を更新するとコストがどれほどかかるかといった使い方をイメージしながら、操作のビジュアルについても議論しています」と運用面での活用例と将来像を語る。最終的な目標としては、修繕や更新の時期と内容、またコストが表せる中長期の保全計画の作成をすることで、2025年度以降に取り組む予定としている。
また、BIM Viewerの活用としては、例えば漏水事故が生じた場合に、BIM Viewer画面で天井裏にある配管やダクトの設置状況を確認し、漏水原因の一次追及を実施することも検討中だ。「これまでは各階平面図を広げて探していたものが、画面の中に入り込んで素早く確認できるのは大きなメリットです」と稲崎氏。
各種報告書などのドキュメント管理は、Archibusが得意とする分野だ。稲崎氏は「各種書類を登録する際にカテゴリーを指定しておけばフレキシブルに検索できるシステムなので、過去のデータをどんどん入れていただく予定です。そして例えば各部屋の情報管理の画面で関連した書類一覧や設備機器の詳細や取扱説明書などが出るといったことも、今後進めていく予定です」と続ける。BIMデータを直接活用する観点ではないが、各種情報をArchibusに取り込むことで、各テナントの光熱水費の請求費用を自動計算する仕組みも構築している段階だ。
現場で使いやすいBIMデータのかたちを追求
稲崎氏は「“つくるBIMから、使うBIMに”という意識で、日本設計メンバーは取り組んでいます。Archibusにはさまざまな機能が備わっているので、どの機能が必要であるかを見極め、使いやすくカスタマイズするための要望を聞き出してアイスクウェアドに伝え対応してもらっています」という。日本設計は札幌駅総合開発と月3回ほどのペースで打ち合わせ、密なフォローとやり取りを継続している。そしてアイスクウェアドには業務をする立場で、現場の使い勝手の向上に役立つ細かな要望を出しながら協議している。今回のプロジェクトを通じて、Archibus本体の標準機能として採用されたものも多くあるという。
今回のプロジェクトについて吉原氏、稲崎氏、近藤氏は「今まで長い期間取り組んできて、ようやく現在まとまってきているところです。これからが本格的に活かされるフェーズですし、隣接する新築案件も待っているので、やり遂げたい」と語る。
さらに四方氏、木下氏は「これから機能のフィードバックを通じて、現場の人間が使いやすいシステムを目指し、チーム全員で一緒に考えていきたい」と続き、運用面での具体的な活用シーンを思い浮かべて展望を語る。Archibusのプラットフォームに蓄積されたデータの運用が本格的になるにつれて、これからもより身近で効率的な活用方法が開発されていくに違いない。
CORPORATE PROFILE
会社名 | 札幌駅総合開発株式会社 |
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創業 | 2005年 |
事業内容 | 店舗、事務所、倉庫等の不動産の賃貸業および展望室、駐車場等の経営など。 |
本社 | 北海道札幌市 |