事例レポート

大成建設株式会社 Trimble

SketchUpの全社的な導入による3Dモデル活用がもたらすBIM/CIM工事の効率化

大成建設株式会社
本社 土木本部 土木部 DX推進室 長谷川 貴哉 氏

明治初期に創業し150年以上にわたり、高度な技術で建設プロジェクトの実績を積み上げてきた大成建設。スーパーゼネコンの1社である同社は、建築・土木の現場や時代のニーズに応え、デジタル技術の活用を推進している。
同社の土木本部でもICT技術の活用が積極的に行われており、3Dモデルや点群データを用いてBIM/CIMを実践し、生産性の向上などに取り組んでいる。
その中で、大成建設の土木本部が土木工事現場におけるBIM/CIMの主要ツールとして採用しているのが、Trimbleの3Dモデリングソフト「SketchUp」である。
今回、SketchUpの全社的な導入の経緯や、活用の具体的な詳細やメリットについて、土木本部 土木技術部 BIM/CIMチームの長谷川貴哉氏にお話を伺った。

3Dモデリングソフトの選定と活用のポイント

全国で数々のプロジェクトを手掛ける大成建設。同社の土木本部では、計画、設計、施工、維持管理の各段階で3Dモデルと広く連携させ、プロセス全体の効率化および生産性の向上を図っている。その主要ツールとしてTrimbleの「SketchUp」を全社的に導入している。そして、SketchUpの社内での教育や啓蒙を行っているのが、BIM/CIMチームの長谷川貴哉氏だ。長谷川氏は、入社後3年半ほど土木設計部、1年半ほどシールド工事の現場を経験。その後、BIM/CIMチームに配属となり、現在はBIM/CIMを活用する工事の現場支援業務をメインに行うとともに、同ソフトの活用推進を担当している。
さて、同部署がSketchUpの普及に力を入れ始めたのは、約2年前のこと。それまでは、現場ごとに異なる他社のBIM/CIMソフトを使用していたが、さまざまな課題があり業務の効率化には限界があった。そこで3Dモデル作成用ソフトを全社で統一し、更なる効率化を図るという方針のもと、最適なソフトとして選定されたのがSketchUpだった。「どの現場でも扱いやすいということが、選定の際に最も重要視した点でした。設計フェーズで作成された3Dモデルを施工レベルで使えるようにする時、CADオペレーターだけでなく、各社員もソフトを扱えることが必要条件だったためです」と長谷川氏。「操作性のほか、社内の通常スペックのPCで動くのも大きな理由の1つです。他社のBIM/CIMソフトでは、現場に少なくとも1台はハイスペックPCを入れる必要があり、施工協力業者とデータをやり取りする際にも課題がありました」と振り返る。
大成建設では、すでに土木関連部署の社員1,500人ほどに研修を行ったほか、グループ会社や現場のJV他社にもSketchUpの講習を定期的に実施。受講した社員は「ユーザーインターフェイスがわかりやすく、初めて3Dモデル関連のソフトに触れる人でも扱いやすいです。ほかのソフトを扱っていた人も、使ううちに慣れてモデル作成も比較的に早くできるようになります」と語り、順調に社内に普及しているという。

大成建設株式会社
本社 土木本部 土木部 DX推進室
長谷川 貴哉 氏
研修の様子
SketchUpのシンプルなユーザーインターフェイス
多様なプロジェクトでSketchUpを活用

そこで、長谷川氏はこれまでに対応した3つの事例について、具体的に説明してくれた。まず1つ目は、BIM/CIMソフトの導入を検討中の活用事例で、これは既設ダムの隣に水力発電所を建設するという難易度の高いプロジェクト。3Dレーザースキャナーで、既設ダムや周囲の山の形状の点群データを取得。その上で、新設する躯体のモデルをSketchUpで作成した。全体のモデルはBIM/CIMチームで作り、細かい個所の修正は現場社員も行えるように教えながら検証を行った。「当時、設計の詳細があまり明確でない状態でした。モデルを作成する過程で、どのような施工になるか考えられる点は良かったと思います。また、2D図面だけでは現場社員とコミュニケーションを取りにくかったのですが、3Dであれば情報や意図を伝えやすいことを実感したのもこの案件でした。モデリングも綺麗にできましたし、社内展開するうえでSketchUpの有効性を示せました」と長谷川氏。
2つ目は、都内私鉄駅での立体交差事業。この事業は現在も進行中だが、現況を3Dレーザースキャナーで取得し、3Dモデル化した。「SketchUpでは点群をなぞることで3Dモデルを作成できる機能があり、駅全体をモデル化しました。駅の工事は狭い範囲で、かつ夜間の短い時間で施工する計画を立てる必要があります。そのため、建設機械の動線検討はじめ、工事関係者間での正確かつ円滑なコミュニケーションが重要となるため、施工計画で活用しています」と長谷川氏。

SketchUpで点群から作成した駅の3Dモデル

3つ目は、最近対応した、ある地方のダム付近での地すべり対策現場の事例である。長谷川氏は、「ボーリング調査の結果を受け、グランドアンカーを打込むなどの対策が必要な軟弱な粘土層の存在がわかっていました。ボーリングデータから地層断面図は作成できるのですが、実際の谷の形状などは断面だけで表しにくく、把握が困難な部分もあります。また、地表面のモデルは航空レーザー測量による国土地理院のデータから大まかに得られますが、地中のデータも把握したいという現場からの要請があり、地層の3Dモデルを作成しました。この3Dモデルは、地質調査会社が行うような精度の高いデータではないですが、地層を3Dにすることでグランドアンカーがどの程度挿入されているかなど、概略を把握できるため役立ちます。現場社員がわかりやすい3Dモデルを容易に作成でき、発注者や工事業者との打ち合わせで現地のイメージを共有できることはとても重要です」とメリットを語る。

目に見えない地層部までSketchUpで作成した3Dモデル
プロジェクトに応じた自発的な活用が広がる

そのほかのメリットとして、長谷川氏は点群データを扱う際にもSketchUpは有効だと語る。近年は、点群データを取得するツールのコストが下がり、測量精度も向上しているため、同社の土木工事では点群データを取得して活用する現場が増えているという。長谷川氏は、「先程も少し触れましたが、ドローン測量した点群データを入れて地形を再現する場合もありますし、点群データを用いて新設する3Dモデルとの干渉チェックのほか、狭隘な現場での建設機械の動きや、揚重計画のシミュレーションに活用する場合もあります。またSketchUpは、プラグインが豊富なため、プラグインを入れるだけで点群データをPCに取り込んでスムーズに見ることが可能です」。3Dモデルの画層表示を設定しておけば、シーン登録により施工ステップを表現する動画も作成できる。動画用ソフトを使うことなく、SketchUpだけで点群データや3Dモデルを活用した作業を完結できるのは効率的だという。また、今後SketchUpのiPad版や、AR機能にもトライしたいと前向きだ。
現在は社内研修や社内啓蒙の効果が表れ、現場に応じて多様な使い方が積極的に試みられている。「講習では、特に外国籍社員や3〜4年の現場経験を経た社員から評判が良いです。SketchUpで3Dモデルを作成すると“便利でわかりやすい”との意見が多数あります。また、TeamsでSketchUpの情報を交換できる場を整えたところ、支店や現場のスタッフが部署を超えてスキル向上の意見交換や事例紹介を自発的に報告し合っています。楽しみながら実践的にソフトを使ってもらえていると感じています」。

Teamsでの事例共有の例

Trimbleとは、月に1回の定期ミーティングを継続的に行っており、「SketchUpの操作や運用をする中で抱く疑問点や要望を伝えることで、使い勝手や機能の向上に反映してもらっています」と長谷川氏。SketchUp自体は四半世紀の歴史を持つが、現在もユーザーの声に応えてブラッシュアップが続けられている。
そして、「クラウド上で3Dモデルや点群データを工事関係者全体で共有するような流れが、さらに広がっていくと思います。建設業界全体で情報共有の事例が積み重なっていければ業務の効率化がさらに進むでしょう」と長谷川氏。SketchUpの活用を含め、BIM/CIMへの取り組みをさらに進めていき、設計や施工をより良いものへと押し上げていきたいと今後を見据える。

CORPORATE PROFILE

会社名 大成建設株式会社
設立 1917年
事業内容 建築工事、土木工事、機器装置の設置工事、そのほか建設工事全般に関する企画、測量、設計、監理、施工、エンジニアリング、マネジメントおよびコンサルティングなど
本社 東京都新宿区
代表者 代表取締役社長 相川 善郎