事例レポート

住友電設株式会社ダイテック

初めてのLinxの導入で実感した3Dモデルのさまざまな効果と今後の期待

住友電設株式会社
東部本部 原価企画統括部 設計積算部 設計課
主席 酒井 芳孝 氏
主席 牧山 信彦 氏
CADグループ 松本 育子 氏
CADグループ 船木 弥生 氏
CADグループ 殿岡 実穂 氏

社会のインフラ基盤を支える総合エンジニアリング企業である、住友電設株式会社。現在、設計課で進行中の「某新築工事(以下、当プロジェクト)」では、建築設備BIMアプリケーションである「CADWe'll Linx(リンクス)」を採用し、推進している。CADWe'll Tfas(ティーファス)の後継ソフトとしてリリースされたモデリングソフトLinxの導入・活用に際し、どのような背景があったのか。
Tfasとの違いやLinx導入の効果の実感などについて、実際にLinxを扱っている東部本部 原価企画統括部 設計積算部 設計課の方々に、詳しく話を聞いた。

TfasとLinxを併用した当プロジェクトの検証と活用

CADWe'll シリーズを1994 年に導入したという住友電設。現在、設計課ではメインソフトとしてCADWe'll Tfas(以下、Tfas)を使用している。
設計担当者の酒井氏は「設計課は電気設備工事の設計をするのが主な業務の部署で、作成した電気設備図で積算を行い、それに対する原価を算出する業務までを行っています」と説明する。2023年5月から基本計画を開始した当プロジェクトの設計業務では、Tfasを使用して電気の基本計画図を作成している。BIM・3D の作業は2024年5月から開始し、基本計画中にTfasで作図していた総合プロット図データを元にCADWe'll Linx(以下、Linx)を使ってモデルを作成し検証を行っている。取材した9月初旬時点は、基本計画と概算見積作業を繰り返した後、実施設計を進めている段階で、設計作業は年内に完了の予定となっている。担当の牧山氏は「当プロジェクトの設計作業の特徴は、建物の大きな部分を占める鉄骨工事が、鉄骨建て方の時期から逆算して工事着手前の先行発注の対象となり、基本計画では、建築と設備の機器を構造的な観点で納まりの検討を進めていくことになりました。続く実施設計では、意匠的な観点で納まりの検討になります。これまではTfasで平面・断面の詳細図などを作図し打ち合わせで使用していましたが、設計段階での3Dの効果を検証するためLinxを初めて使うことにしました」と振り返る。
当プロジェクトでは構造、電気設備、機械設備の干渉チェックを行うため構造図のモデリングが必要であった。そこで、CADグループが構造図資料を元に、梁・柱・基礎リストなどで鉄骨部材の大きさやその他の情報を読み取り、DWGデータで構造体の位置を把握しながら、Linxで3Dモデルを作成。そのモデルにTfasで作図していた電気設備データを統合させていった。
作図を担当した松本氏は「登録されていない特殊な基礎などは、さまざまな部材を重ね合わせて作っていきました。水勾配のテーパーの部分などは苦労した記憶があります。また、平面図だけでなく軸組図を見ながら描くことには慣れていないので時間がかりましたが、モデル完成時は感動しました」と語る。

構造図3D化全体図

酒井氏は「今回の建物は研究所という事もあり、設備バルコニーや設備用鉄骨架台など建築構造と、限られたスペースで複雑に入り組む設備機器との納まり検討の早期決着が課題でした。そこでLinxで3D化した構造図を使い、Tfasで作成した電気設備、機械設備、プラント設備をLinxでワンモデル化する事により、3Dでの納まり検討や干渉チェックをLinx上で行う事ができました。また、構造図と設備一体で3D化する事で、設備のメンテナンス空間も可視化できます」という。牧山氏は「設計の段階で建築図をトレースしてから設備図を作成することはあまり無い中で、CAD担当者が初めて構造図面を読みながらLinxで3D化をしていきました。初めての作業でしたが、建物全体の立体的なイメージを自然につかむことができ、その後の電気設備の作図でも空間意識を持つことで作業効率が上がり、作図した図面が3Dに表現されることによるやりがいや楽しさを感じたと思います。また、意匠と構造の設計者やクライアントにも意図を説明しやすく、設計上の意思の疎通が円滑に進んだと思います」という。

Tfas_設備・建築納まり詳細検討図2D→3D
Linxの効果を実感しながら作図を進める

具体的に、これまでの設計・作図業務と比べて効率化を感じた点はどのようなことだろう。松本氏は「Linxのコラボレーション機能では、複数の作業者が1つのモデルを作っていくので、最初にモデルを作る苦労はありますが、作図したデータやシートの出し入れは簡単にできました」という。殿岡氏は「オブジェクトプロパティが、使っていて便利だと感じました。これは、Tfasの図形情報コマンドとは異なり、部材のサイズや高さレベルなどを直接修正できてリアルタイムに反映されるものです」とLinxならではの有効な機能をあげる。
詳細図を担当する船木氏は「これまでは平面図を修正すると、断面図など関連する図面すべてに修正点を反映していくのが大変でした。Linxでは整合性をもって同時に変換されて修正されるので、抜けがなくなり手戻りも起きないため、かなり効率化が図れました」とメリットを語る。
Tfasでは外部リンクなどを介して図面を統合させる方法であったが、Linxでは作業者各自が作成したLinxデータを「プロジェクト作成機能」にて簡単にシートの出し入れが可能で、整合性のあるモデルを作成している。設計課ではこの機能を使うことが初めてであったため、開発元のダイテックに社内講習会を開催してもらったという。「テンプレート」を作業者間で共有することで、同じ作図環境で同一モデルの作図・編集ができる。この際、作業者は自分が担当する階など必要な部分のみを引き出し、修正したシートをアップロードすればモデルが統合される。

コラボレーション機能構成図

ケーブルラックについては、Tfas から属性情報を保持したデータをダイレクトに読み込みLinx で編集作業を行った。船木氏は「高低差があり、複雑なラックも3D 上で直にルーティング編集ができるため、干渉チェックを行いながら容易に作図できました。階をまたぐ縦ラックは、特定の階に依存しないPS シート機能を使うと各階のラックと接続可能です」という。

3D上のケーブルラックルーティング

なお、今回の当プロジェクトでは建築設計施工側のゼネコンがAutodesk Revitを使用していたことから、IFC 形式のデータでRevit と連携を行ったという。「IFCデータのやり取りに関しては問題なくLinxに読み込めました。今後は、ダイレクトリンク、Revit直接出力での属性情報を保持したデータのやり取りに期待したいです」と松本氏は振り返る。

3DPDFで現場での確認とコミュニケーションの精度向上にも期待

Linxには「3DPDF機能」があり、設計課では今後の活用に期待を寄せる。
「Linxをインストールしていないタブレットなどでも、PDF上で3Dを動かすことができます。Linx側で見たい箇所をビューポイントで設定しておけばPDFにも引き継ぐことができ、ポイントをクリックするだけで、見たい箇所に飛んで見ることができます」と殿岡氏。

3DPDF機能使用状況

酒井氏は「『あの部分はどうだっけ』ということは数多くあるものですが、特別なソフトを立ち上げずに見られるのは助かります。関係者が皆で確認できるので、打ち合わせは円滑に進むと思います」と予測する。

3Dモデルの効果とBIMへの期待

牧山氏は「理想的なフロントローディングにどこまで近づけることができるか、どこまで現場につながる図面を作成することができるか、その方法等を模索しながらBIM・3Dの図面に従事していければと思います」。酒井氏は「部材を詳細に3Dに表しているので、そのまま数量などを拾い出して積算や見積りを行ってみたいと思っています。そして、今回Linxを使用した実績を各方面に共有して、さまざまなプロジェクトでBIMを使っていき、効率を少しでも上げていきたいですね」と意気込みを語る。3Dの可視化を通して精度を高め、円滑なコミュニケーションにも役立てている住友電設設計課の取り組みは、今後社内に広がり、さらなる高効率化、品質向上に必ずつながっていくだろう。

CORPORATE PROFILE

会社名 住友電設株式会社
創立 1950年
事業内容 電気工事、情報通信工事をはじめ、電力、空調、プラント等の設備工事全般など
本社 大阪府大阪市/東京都港区
代表者 代表取締役社長 谷 信